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名古屋地方裁判所 昭和41年(ヨ)1509号 判決

申請人 中村鐐二

被申請人 愛電交通株式会社

主文

本案判決確定に至るまで申請人が被申請人の従業員としての地位にあるものと仮に定める。

被申請人は申請人に昭和四一年五月四日から本案判決確定に至るまで毎月末日四〇、七四〇円の割合による金員を仮に支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人訴訟代理人は主文第一、二項と同じ判決を求め、次のように述べた。

「(一) 申請人は昭和四〇年三月一八日被申請人に雇われ、そのタクシー運転手として勤務して来た。

(二) 昭和四一年五月三日、被申請人は申請人に対し、申請人を解雇する旨の同年四月二七日付書面を送付して来た。解雇の理由は、次に述べる昭和四一年四月七日の申請人の言動が被申請人乗務員として適当でないというのであつた。

(三) しかし、申請人は解雇に価するような言動をしたことはない。昭和四一年四月七日の出来事というのは次のようなものである。

(1)  申請人は同日午後四時ごろ被申請人のタクシーに乗務し、名古屋市中区広小路通を走つていたところ、警官にタクシーの流し禁止地域で流し運転をしたとの疑をかけられ、停車を命じられ、取調べを受けた。申請人はそのような違反はしていなかつたので、その旨弁明したが、警官は取調べを続けた。やがて、申請人が連絡したので、被申請人渉外課長伊藤輝久が現場にやつて来て、申請人に無実であつても違反を認めるようにといつた。申請人はこれに従わなかつたし、警官に違反はない、取調べは不当であるから、すぐ取調べをやめるようにと要求、抗議した。警官はこれを無視し、申請人を右違反の現行犯として逮捕した。申請人に違反の事実がないことは、申請人が翌日には釈放され、右事実について起訴されていないことでもわかる。

(2)  ところが、被申請人は同月一〇日申請人に対し、警官との抗争、伊藤課長の命令不服従ということを理由に同月二七日までの自宅待機を命じた上、前記解雇をするに至つたのである。

(3)  以上のように、申請人は四月七日警官の誤つた取調べに対し、事実を述べ弁明したにすぎず、事実でないことを認めるようにという伊藤課長の命令が不当なものなのであるから、申請人がこれに従わなかつたことになんら責められるべきところはない。

(4)  被申請人は右事件について行われたその後の事情聴取の席で、申請人が交通法規を守る意思がないといつたとして、これを解雇の一事由と主張する。申請人は被申請人の行なつた取調べの際、「被申請人が運賃収入の少い運転手を寄生虫よばわりするなど人権無視の方法で運転手を督励するから、たまには交通法規に違反する者が出る」との趣旨のことはいつたが、法規を守る意思がないなどいつたことはない。

(5)  すなわち、申請人には解雇に価する事実はないのであるから、被申請人のした解雇の意思表示は無効である。

(四) 被申請人は自ら、本件解雇は被申請人所定の就業規則上の懲戒解雇としてしたものでなく、いわゆる普通解雇としてしたものであるが、就業規則上普通解雇事由として定めたところに申請人の行為が当るとして解雇したのではない、そのような解雇原因なくとも解雇しうるものとして解雇したものだと主張する。

就業規則に普通解雇、懲戒解雇の規定が設けられている場合は、その各規定に定められた解雇原因がない限り解雇はされないとの労使間行動基準を使用者において設定したものに外ならない。従つて、被申請人のいうように、その就業規則によらず、その定める解雇原因なくして、された本件解雇は無効である。しかも、申請人には就業規則によるものであれ、何であれ解雇に価する行為のないことはさきに述べたとおりである。

(五) 申請人は、かねてから被申請人従業員が組織する全国自動車交通労働組合愛電交通労働組合に加入し、熱心に組合活動をして来た。組合代議員にも選出され、労働強化反対、労働条件向上のため代議員会などで強く発言し行動した。

被申請人は、申請人の右のような組合活動をきらい、申請人を被申請人企業から排除しようとして、本件解雇におよんだのであり、右解雇はいわゆる不当労働行為として無効である。

(六) 右解雇に至るまで、申請人は被申請人から平均月額四〇、七四〇円の賃金を受け、これで生活をしていた。ところが、被申請人は右のように無効な解雇処分を有効であると主張し、申請人が就労を申出てもこれを拒否し、昭和四一年五月四日以降の賃料を支払わない。このままで被申請人に対する本案訴訟判決の確定を待つていては、申請人およびその家族の生活は破壊され、回復することのできない大損害を受けるに至る。よつて、本申請におよんだ。」

被申請人訴訟代理人は「申請人の申請を却下する、申請費用は申請人の負担とする」との判決を求め、次のように述べた。

「(一) 申請人が昭和四〇年三月一八日から被申請人に雇われ、タクシー運転手として勤務していたこと、被申請人が申請人主張の解雇の意思表示をしたことは認める。

(二) 被申請人が申請人を解雇したのは次の事由による。

(1) 名古屋市中区の広小路通は流し自動車の通行(有償で不特定の人を運送する目的の自動車で、料金、空車などの表示をして空車で通行すること)は、午前八時から午後一〇時まで禁止されている。

ところが、申請人は昭和四一年四月七日午後四時ごろ、被申請人の中型営業車を運転し、右広小路通(中区栄二丁目朝日神社前のあたり)を走行中、流し禁止違反の疑で警官に呼びとめられ、免許証の提示を求められた。申請人はその提示を拒み争となつた。警官から連絡を受け、被申請人渉外課長伊藤輝久は現場に赴いた。現場について見ると、申請人と警官とはげしい口論をしており、申請人が免許状の提示を拒んでいることがわかつた。伊藤課長は申請人に免許状を提示するようにといつたが、申請人は従わず、免許証を指でつまんで見せただけで、ポケツトにしまつてしまい、警官にはげしく文句をいつた。伊藤は申請人を説き、警官とも三人申請人の車に入つて話しをしようとした。申請人は逆に車から飛び出し、警官をさして「こいつらは車のキーを盗んだ、泥ぼうだ」とまわりの通行人にわめいた。野次馬が多数集つて来たので、伊藤は何とか事をおさめようとしたが、申請人はききいれず、騒ぎは大きくなるばかりであつた。結局約一時間後申請人は警察のパトカーに収容された。

(2) 申請人の右のような乱暴な言動のひきおこした事件は新聞数紙に被申請人の名とともに報道された。

(3) 被申請人は同月一〇日申請人から右事件についての事情をきいた。被申請人総務課長鈴木正男が申請人に「事情はともあれ、申請人の行動はタクシー運転手として好ましいものではない、反省の気持はないか」とたずねたのに対し、申請人は「交通法規や公安委員会の定めた事項を守つていたのでは、収入は上らない」といつた。

(4) 同月一二日被申請人取締役石川巌が申請人に事情をきいた際にも、申請人は「交通法規違反をしなければ、タクシー運転手はつとまらない」といい、反省の色は見えなかつた。

(5) 被申請人はいわゆる流し営業と固定客からの電話などによる註文で車を差しまわすハイヤー的営業とをしており、運賃収入の六割以上は後者の営業方法によるものである。被申請人従業員である申請人のひきおこした前記のようなさわぎが新聞紙上報道されたことは、右のように固定客の多い被申請人の営業信用を損じることとなつたのは勿論のことである。さらに、多くの通行人、公衆の面前で申請人が示した粗暴な言動は、もとよりタクシー運転手の言動として好ましいものではない。しかも、事後の事情調査の席上、申請人は前記のように、交通法規違反を当然視し、これを守る意思がない旨言明している。

タクシー営業を業務としている被申請人としては、このように言動粗野で、交通法規を守る気のない申請人に、一般乗客を相手とするタクシー運転をさせておくことはできない。それをさせれば、客に不快感を与えるばかりか、いつ事故をおこして物件、人身に損害を与えるかわからない。

(6) 被申請人就業規則第三七条には、即時解雇を含む懲罰処分事由として、「故意または重大な過失により会社および従業員に損害を与えたもの(第一号)」「運転手で交通法規を守らず、また従事する業務の責任重大さの認識を欠くもの(第五号)」との旨の規定がある。申請人の言動は右懲罰事由に当るものである。

被申請人は申請人に対する処分を慎重検討した結果、タクシー乗務員として申請人は不適当であり、解雇するほかないとの結論に達したが、申請人の将来を考え、あえて前記懲罰解雇処分にはせず、申請人に対し労働基準法第二〇条第一項本文の定めに従い、その三〇日分平均賃金支払を提供し(申請人がその受領を拒んだので、同年五月一六日供託した)、解雇の意思表示をしたのである。

(7) 被申請人就業規則はその第三一条にいわゆる普通解雇について規定し、普通解雇原因を挙示している。申請人の前記言動は直接右の普通解雇原因に当るものではないが、右第三一条所定の解雇事由は例示というべく、前記のように解雇に価する言動ある申請人に対する解雇が、右第三一条の規定にふれ無効となることはない。

(三) 右解雇が不当労働行為であるとの申請人主張は否認する。申請人がその主張組合に加入し、組合活動をしていたかどうかは知らない。

(四) 被申請人が、昭和四一年五月四日以降申請人を被申請人従業員として扱わず、その日以降賃金を支払つていないことは認める。」

(疎明省略)

理由

(一)  昭和四〇年三月申請人は被申請人に雇われ、タクシー運転手として勤務していたこと、昭和四一年五月三日申請人に到達した書面で申請人を解雇する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。

(二)  右解雇の意思表示の効力について判断する。

(1)  右解雇が、被申請人就業規則所定の懲罰処分としての即時解雇として行なわれたものでなく、またその第三一条所定の普通解雇原因に直接当る事由があるとしてされたものでないことは当事者間に争がない。

成立に争のない乙第一号証によれば次の事実が疎明される。すなわち、被申請人就業規則はその第三一条でいわゆる普通解雇をするについての事由として一〇項の具体的場合を定めている反面、これらの場合以外は普通解雇をしないかどうかについては必ずしも明定していない。また右就業規則は、即時解雇処分をも含む懲罰事由として別に八項の該当事由を定めている(第三七、三九条)が、その懲罰事由は必ずしも直に前記普通解雇事由に当るものではない。

こうした事実関係から見れば、被申請人はなんら特段の事情なくしてはその従業員を普通解雇であれ、解雇しえないとともに、懲罰解雇事由ある場合、その他特に解雇を正当とする事由のある場合にはそれが必ずしも前記就業規則上の普通解雇事由に当らない場合であつても、普通解雇をしうるものと解するのが相当である。そうでないと、懲罰解雇事由がある場合、懲罰としての即時解雇はなしえても、これより従業員にとつて害の少なかるべき普通解雇はなしえないということにもなり、事の均衡を欠くことになるであろう。

(2)  そこで、次に、右にいうような解雇を正当とすべき事由が本件解雇に存するか否について判断する。被申請人はその解雇事由として、昭和四一年四月七日中区広小路通での申請人の警官に対する抗争が粗暴で、これが新聞で報道され被申請人の信用がそこなわれたこと、申請人はその後も交通法規を守る意思がない旨表明していることを挙げる。

(イ)  申請人が昭和四一年四月七日午後四時ごろ名古屋市中区栄の広小路通をタクシーを運転して走行中、いわゆる流し営業違反の疑で警官から停止を命じられ、取調べを受けたこと、違反事実がないとする申請人と警官との間で争いとなり、結局申請人は逮捕されたこと、これらの事実は当事者間に争がない。

証人伊藤輝久の証言によりその成立が疎明される乙第四号証、証人伊藤輝久の証言、申請人本人尋問の結果を総合すると、次の事実が疎明される。

すなわち、申請人は右日時ごろ被申請人の栄町営業所から南大津営業所に行くべく広小路通を丸栄百貨店わきの交さ点で横断するつもりであつたが、予定をかえ、交さ点で右折し広小路通を空車のまま走つた。その際申請人は、空車板をあげる(そうすると空車であることを示さないこととなり、流し自動車ではないことになる)ことを必ずしも確実には実行しなかつた。そのため、申請人は間近い丸善ビル前あたりまで走つたところで、警官に道路交通法違反(流し自動車運転)の疑で、停車を命じられ、取調べを受けた。申請人としては流し営業をするつもりでいたのではなかつたところから、違反の事実はないと主張した(なお、右流し禁止とは、禁止道路を空車で空車表示をして走ること自体の禁止であつて、流し営業をする、あるいは流し営業の目的で走る場合にはじめて禁止対象とされるものではない。従つて警官が申請人に右違反の疑があるとしたことは、前記事実からすれば決して不当ではない)。警官が申請人に免許証の提出を求め、これにより交通切符の発行をしようとしたところ、申請人は免許証を奪いかえし、さらに押問答が続いた。しばらく後、警察から連絡を受け、現場に来た被申請人渉外課長伊藤輝久は申請人に、警官の求めに応じて免許証を提示し、おだやかに事の決着をつけるようにいつたが、申請人は、免許証を指でつまんでひらひらさせただけで、ポケツトにしまいこみ、従わなかつた(免許証を提示するのは、相手に記載内容を続みとらせるためのものなのであるから、申請人のした右のような見せ方は、提示とはいえず、これで求められた提示をしたというのであれば、それはむしろ相手を愚弄したことになろう。)そのようなやりとりがくりかえされているうち、警官が申請人を附近の交番に連行しようとしてそのシヤツやネクタイを引張つたりしたこともあつて、申請人はしだいに興奮し、語気荒く、声高になり、警官が申請人の車のキーをぬき持つていたのに対し「車のキーを盗んだ、こいつらは泥ぼうだ」などと叫んだりした。そのような押問答が路上で約一時間くりかえされたあげく、申請人は警察に連行された。その場所は名古屋の中心近いところであつたから、附近には相当の人だかりができた。なお、その附近には被申請人の固定客が少くない。

さらに成立に争のない乙第一号証の一、二、三によれば、次の事実が疎明される。右事実は翌八日の中日、毎日、朝日の各新聞に報道されたが、その記事は申請人が流し禁止違反の疑で取調べを受け、一たん提出した免許証を取りかえしたこと、キーをとりあげた警官にドロボウといい、逮捕されたことなどで、むしろ記事の重点は右逮捕に抗議して労働組合員が警察に押しかけ騒いだということの報道にかけられている。

以上の事実が一応認められ、これを覆えすにたりる疎明資料はない。

右事実によれば、警官が申請人に道路交通法違反行為の疑ありとして、取調べ、免許証の提示を求めたのが違法、不法な行為であるとは見られない。他方、申請人が自分に法規違反の事実はないと信じ(たとえ、そう信じたのが事実の誤認ないし法の誤解によるものではあつても)、そう主張し抗争したこと自体を以て不当とはいえないが、その間の申請人の言動は争がながびくにつれてのいらだち興奮が加つたにせよ、些か粗暴にすぎ、穏当を欠いたものというほかない。しかし、附近に被申請人の固定客が少からず居住ないし勤務していたにせよ、それらの人々が右事件を直接見聞したとの疎明はないし、前記新聞記事は、申請人の行為に関する限り、前述のように簡略なもので、これがために乗客が被申請人のタクシーに乗車することをためらうに至るものとは断定できない(事実そのようなことがおこつたことを疎明すべき資料はない)。

とすれば、右四月七日の申請人の言動を以て被申請人の信用を傷けたものとし、あるいはその他申請人を被申請人企業から排除するのが相当と解すべき解雇事由あるものとはしがたい。

(ロ)  証人鈴木正男の証言によりその成立が疎明される乙第五、六号証、証人鈴木正男、石川巌の各証言、申請人本人尋問の結果を総合すると、次の事実が疎明される。

すなわち、右事件後の昭和四一年四月一〇日には被申請人総務課長鈴木正男が、同月一二日には同総務担当取締役石川巌が、それぞれ申請人につき右事件の事情聴取をした。その際、申請人は、右四月七日には自分に交通法規違反の行為はなかつた旨主張する反面「交通法規を守つていると水揚は上らない、水揚をあげろ、あげろといわれているので、多少の違反はある、交通違反をしなければ、タクシーの運転手はつとまらない、それは被申請人雇傭の運転手だからというわけでなく、タクシー運転手一般の問題だ」といつたような趣旨のことを述べた。

もつとも、成立に争のない甲第五号証の一ないし二三、証人石川巌の証言、申請人本人尋問の結果を総合すると、申請人の右発言の趣旨については次のように一応認められる。すなわち、被申請人はその従業員運転手の出勤時に各人に客を乗せた回数、走行キロ、収入金額などを記入したカードを渡していたが、それには成績をあげた者には賞揚の言葉を、成績のわるかつた者には叱責、激励、注意督促の言葉をかきこみ、それら成績のわるい者を寄生虫(それは被申請人ないし同僚従業員のかせぎに寄生して賃金をえているということを意味する)と指称していた。申請人はそのように収入を挙げることを被申請人が督促していることを念頭におき、さらには申請人は違反の事実がなかつたと信じているのに、被申請人は違反の事実があることを前提として右事情聴取をしていると感じ、応答したのであつて、前記発言も、いかなる交通法規をも無視して守らないという趣旨ではなく、収入をあげようと努めている間法規違反をすることもありうることを強調しての行きすぎた言葉であつた。

また、申請人は右四月七日の事件(それは起訴に至らず終つている、申請人本人尋問の結果)以外には昭和四〇年一一月ごろ交通法規違反で罰金に処せられたことがある(申請人本人尋問の結果)ほか、法規無視の行為があつたとする疎明はないのであつて、これから見ても前記発言はタクシー運転手として不穏当なものとはいえ、一時の行きがかりから、行きすぎた発言をしたにすぎず、これを以て申請人が法規を無視し守らないとの信念をもつものときめるわけには行かない。

他に、以上の認定を左右するにたりる疎明資料はない。

(ハ)  そうすると、申請人の右各行為はいずれも穏当なものとはいえないが、成立に争のない乙第一号証によつて疎明される被申請人主張就業規則の懲罰事由第三七条、第一号故意または重大な過失により会社および従業員に損害を与えたもの、第五号運転士にして交通法規を遵守せず、また従事する業務の責任重大の認識を欠くもので、解雇に価するものに当るとはしがたく、また被申請人企業ないしその秩序維持のため申請人の職を奪うのを正当とするにたりる事由に当るともしがたい(前記警官なり伊藤課長に対する申請人の態度はいかにも粗暴ではあるが、前認定のように特別の状況下のことであり、これを以て申請人が乗客などに粗暴な態度をとる性格の持主であるとは推認しえないし、一般顧客に対し申請人が粗暴な態度を示した事実の疎明はない)。

すなわち、被申請人がした解雇の意思表示は解雇を是認すべき正当事由を欠き、無効なものというべきである。

(三)  昭和四一年五月四日以降被申請人が申請人をその従業員として扱わず、賃金の支給をしていないことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第六号証によれば、申請人一家三人は昭和四一年一二月以降生活保護法による生活扶助を受けて生活していることが疎明される。右解雇の意思表示当時申請人が被申請人から受けていた賃金平均月額が四〇、七四〇円であつたとの申請人主張を被申請人は明かに争わないから、これを自白したものとみなされる。

(四)  以上認定したところによれば、申請人の本件申請は理由があると見られ、主文第一、二項記載内容の仮処分をすることが相当である。よつて、申請費用は敗訴した被申請人の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官 西川正世 片山欽司 鬼頭史郎)

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